京都地方裁判所 平成4年(ワ)2212号 判決 1993年4月26日
主文
一 被告らは、各自、原告神瀬和由に対し金二二三三万八八七六円、原告神瀬初美に対し金二一六三万八八七六円及びこれらに対する平成三年七月四日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その三を被告らの、その余を原告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告らの請求
1 被告らは、各自、原告神瀬和由に対し、金三八三七万八八六〇円及びこれに対する平成三年七月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告らは、各自、原告神瀬初美に対し、金三七一七万一四三五円及びこれに対する平成三年七月四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、自動車の転落事故により、同車に同乗していて死亡した者の相続人が、自動車の運転者に対し民法七〇九条に基づき、自動車の所有者に対し自賠法三条に基づき、それぞれ損害賠償を請求した事件である。
一 争いのない事実
1 交通事故の発生(以下「本件事故」という。)
(一) 日時 平成三年七月三日午後一〇時五〇分ころ
(二) 場所 京都府宇治市槙島町六石山天ケ瀬ダム上流約一キロメートル(府道大津南郷宇治線)
(三) 事故車両 被告北村尚一(以下「被告北村」という。)が所有し、被告大槻善章(以下「被告大槻」という。)が運転していた普通乗用自動車(京都五三て四八七四、以下「事故車」という。)
(四) 事故態様 被告大槻が、被告北村、原告らの長男である亡神瀬和也(以下「和也」という。)及び訴外笹井哲也(以下「笹井」という。)を同乗させて事故車を運転していたところ、運転を誤り、事故車を宇治川に転落させ、和也及び笹井を死亡させた。
2 被告らの責任等
(一) 本件事故は、被告大槻の不適切な運転方法により生じたものであり、被告大槻に過失がある。
(二) 事故車は、被告北村が所有していたものである。
3 相続
原告らは、和也の両親であり、他に相続人はいない。
二 争点
1 被告北村の運行供用者責任
被告ら補助参加人は、和也は共同運行供用者であり、被告北村に対する関係において自賠法三条本文の「他人」に該当しないと主張している。
2 損害額
3 好意同乗による減額
第三争点に対する判断
一 被告北村の運行供用者責任(和也の他人性)
1 証拠(乙二、四、五、一〇、一三、二〇~二四、三一~三六、被告北村本人)によると、以下の事実が認められる。
(一) 事故車は、被告北村が普通運転免許を有していないため同人の父北村博名義で登録されていたが、被告北村がローンで購入したものであり、被告北村の所有であつた。
(二) 和也と被告らとは高校時代からの知合いであり、和也と笹井は親戚関係にあつた。
被告大槻は、平成二年五月一七日に普通運転免許を取得していたが、平成三年六月二四日に六〇日間の免許停止処分を受けており、本件事故当時は運転資格を有していなかつた。被告大槻は、同日ころ、被告北村に免許停止処分を受けていることを話したため、被告北村は本件事故当時被告大槻が運転資格を有していないことを知つていた。
(三) 平成三年七月三日夕方、和也と被告北村と笹井は、パチンコをしていたが、和也がドライブでも行こうかと言い出し、和也は被告北村に対し自動車を貸してくれるように頼んだところ、被告北村はガソリンがあまり入つていないため躊躇したが、和也がガソリン代を出してやるというので、これを承諾した。そして、被告北村らは、同人宅に帰り、その際、被告北村が被告大槻に電話したところ、被告大槻もドライブがしたいと言い出したため、和也が事故車を運転して、被告大槻方まで行き、同人を助手席に乗せた上、四人で天ケ瀬ダム方面にドライブに出掛けた。
(四) 和也らは、同日午後一〇時ころ、天ケ瀬レストラン前の自動販売機でジユース等を飲んだ後、本件事故現場の東方約四キロメートルのカーブで道幅が広くなつた地点の路肩部分に事故車を停車させ、車内で話をしていた。その際、被告北村は、被告大槻が運転したそうにしていたため、後部座席から助手席の被告大槻に対し「運転してみるけ。」と声をかけたところ、和也が「運転うまいらしいな。」と同調してきた。被告大槻は「ええんか。」と言いながら、助手席から車外へ降りて運転席に移り、被告北村が助手席に、和也は後部座席にそれぞれ移動した。
(五) 被告大槻は事故車を運転して時速約八〇キロメートルで進行し(制限速度は時速四〇キロメートル)、通称ライン茶屋あたりから時速一〇〇~一二〇キロメートルに加速したため、和也と笹井は、後部座席でシートベルトを締めていたが、「こわい。こんなスピードで事故したら死ぬ。」と言つていた。そして、被告大槻は、本件事故現場付近で事故車左前輪を道路左側(山側)の溝に脱輪後、同車を右斜め前方に暴走させ道路右側にある防護柵を押し倒し、右断崖から約三〇メートル下の天ケ瀬ダムに転落させて、即時同所において、和也をシヨツクにより、笹井を溺水により、それぞれ死亡させた。
2 以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
被告は、和也は被告大槻が免許停止中であることを認識していたと主張しているけれども、被告大槻の「僕が免停中であつたことは三人とも知つていた。」との供述は特に根拠を示しているわけではないこと、被告北村の「和也は、どこかに遊びに行つたときに大槻の話が出ていたので免停中だということを知つています。」との供述も不明確であること。本件事故のドライブの際には被告大槻が免停中であることは話題に出ていないこと(被告北村はその本人尋問において被告大槻が運転をかわる際に免停中であるとの話が出たと供述しているが、同人は捜査段階ではそのような供述は一切しておらず信用できない。仮に右供述のとおりであつたとしても、その話が出たのは被告大槻が運転席にすわつた後であつて、和也が被告大槻が免停中であることを知つた上で、同人に運転をかわつたことにはならない。)、被告北村は一方で、和也が本件事故当時被告大槻の免停をわかつてなかつたかも知れないと述べていることなどの事情を総合すると、和也は被告大槻が免許停止中であることを認識していたと認めるには証拠が不十分である。
3 以上の事実を前提として和也の他人性について判断するに、自賠法三条の「他人」とは、当該車両の運転者及び運行供用者以外の者をいうが、事故車の所有者は被告北村であり、運転者は被告大槻であつて、和也はそのいずれでもない上、前記1認定の事実関係に照らしても和也が運行供用者であつたことを認めることはできない。
被告ら補助参加人は、和也が事故車に搭乗していた四人の中で唯一の運転免許保持者であつたことをとらえてその運行支配の程度が被告らに優るとも劣らなかつたと主張しているけれども、事故車の所有者でも運転者でもない和也が唯一の運転免許保持者であることの一事をもつて運行供用者であつたということはできず(被告ら補助参加人が引用する判例は、車両の所有者が死亡した事例に関するものであつて、本件とは事案を異にする。)、いわゆる好意同乗者たる地位にとどまるものというべきであつて、被告ら補助参加人の他人性に関する主張は失当である
4 したがつて、被告北村には自賠法三条の運行供用者責任が認められる。
二 損害額
1 葬儀費用 一〇〇万円
和也の年齢、地位等からすると、被告らに負担させるべき葬儀費用としては、一〇〇万円が相当である。
2 逸失利益 四三三九万六七九〇円
証拠(甲三、八、原告神瀬初美本人)によると、和也は本件事故当時、満一九歳の健康な男子であり、京都経営経理専門学校の一年であつたことが認められる。
したがつて、和也は本件事故がなければ、向後四八年間にわたり、平成二年賃金センサス第一巻第一表・企業規模計・産業計・男子労働者・高卒全年齢の平均年収である四八〇万一三〇〇円の収入を得ることが可能であつたと考えられ、その間の生活費控除は五割とし、ライプニツツ方式により年五分の中間利息を控除して、逸失利益を算定すると、右金額となる(一円未満切捨て)。
4,801,300×(1-0.5)×18.0771=43,396,790
3 慰謝料 一五〇〇万円
和也の年齢及び地位、前記一1認定の各事実、原告らは被告北村の契約していた搭乗者傷害保険から五五〇万円の保険金の支払いを受けていること(被告ら主張のように損害の填補と認めることはできないが慰謝料の算定に当たつては考慮することとする。)その他本件審理にあらわれた諸般の事情を総合して判断すると、和也の死亡により和也本人及び原告らが受けた精神的損害に対する慰謝料としては、金一五〇〇万円が相当である。
4 1は原告神瀬和由の損害であり、2及び3は原告らが法定相続分に応じて各二分の一を相続したものであるから、原告神瀬和由の損害額は三〇一九万八三九五円、原告神瀬初美の損害額は二九一九万八三九五円となる。
三 好意同乗による減額
和也らが事故車に乗車し、本件事故に至つた経緯については、前記一1で認定したとおりであり、和也は、被告ら主張のように危険に加功したとまではいえないものの、危険をある程度承知した上で被告大槻に運転をゆだねたものといわなければならないから、損害の公平な分担の見地からは原告らの損害から三割を減額するのが相当である。したがつて、原告神瀬和由が被告らに対して請求できる金額は二一一三万八八七六円、原告神瀬初美が被告らに対して請求できる金額は二〇四三万八八七六円となる。
四 弁護士費用
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、各一二〇万円と認めるのが相当である。
五 結論
よつて、原告神瀬和由が被告らに対して請求できる金額は二二三三万八八七六円、原告神瀬初美が被告らに対して請求できる金額は二一六三万八八七六円となる。
(裁判官 岡健太郎)